DX人材とは
DX人材とは、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するために必要な幅広いスキルと専門知識を持つ人材のことです。DX人材は、データ分析やプログラミングなどの分野で高度な専門知識を持ち、組織のDX戦略を成功に導くために重要な役割を果たします。
DXの定義
DX人材への理解を深めるために、まず「DXとは何か」を解説していきます。DXとは、ビジネスプロセスや組織の仕組みを、デジタルテクノロジーを活用して大幅に変革する取り組みです。経済産業省は、DXにおいて以下のように定義しています。
DXの定義
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
※引用 経済産業省『デジタルガバナンス・コード2.0』
このような定義を持つDXは、企業のビジネスを進化させ、変革させる取り組みとして大きな注目を集めるようになりました。
DX人材が求められる理由
次はDX推進を担う人材について紐解いていきます。現代では、データ活用やデジタル技術の進化により、データ・デジタル技術を活用した産業構造の変化が起こりつつあります。経済産業省がまとめたレポートによると、日本ではDX人材の不足が深刻な課題となっており、その必要性について次のように述べています。
DX推進における人材の必要性
「企業がDXを実現するには、企業全体として変革への受容性を高める必要がある。そのためには、経営層を含め企業に所属する一人ひとりがDXの素養を持っている状態、すなわちDXに理解・関心を持ち自分事ととしてとらえている状態を実現する必要がある。また、変革への受容性を高めたうえで、実際に企業がDX戦略を推進するには、関連する専門性をもった人材が活躍することが重要である。」
※引用 経済産業省『デジタルスキル標準 ver.1.1』
企業が競争上の優位性を確立するためには、常に変化する社会や顧客の課題を捉え、DXを実現することが重要です。その鍵となるDX人材の確保・育成の必要性が高まっていることがわかります。
では、現在の日本企業においてDX人材はどの程度確保されているのでしょう。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表した「DX白書2023」では、DXを推進する人材の量と質に関する調査が行われました。
調査によると、DX人材の「量」が充足していると回答した日本企業の割合は、わずか10.9%と低い結果となりました。同じ質問に対して、米国では73.4%がDX人材の充足を実感していると回答し、比較するとその差は非常に大きいことが分かります。
また、DX人材の「質」についての調査では、「やや不足している」または「大量に不足している」と回答した割合が86.1%と、全体の約9割近くがDX人材の質に対して明確な不足を感じていることが明らかとなりました。

※出展 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)『DX白書2023』図表1-21

※出展 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)『DX白書2023』図表1-22
同調査では、このような実情に対して以下のような考察を述べています。
日本の企業でDXを推進する人材の「量」「質」の不足が増加した要因
「日本の企業でDXを推進する人材の「量」「質」の不足が増加した要因としては、この1年でDXに取組む企業の割合が増加し、それにあわせてDXの推進に必要な人材に対するニーズが増えていることが考えられる」
※引用 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)『DX白書2023』
DX人材の必要性についての理解が進む一方、日本においてDX人材の量と質に悩む企業が多い状況といえます。
DX人材の7つの職種例
では、DX人材とは具体的にどのような職種を指すのでしょうか。DX人材となりうる職種を7つご紹介します。

ビジネスプロデューサー
ビジネスプロデューサーは、ビジネスの戦略的な方向性を定め、DXプロジェクトにおけるビジョンの実現に向けてリードする役割を担います。デジタル技術を活用した新たなビジネスモデルの立案やプロジェクトの進行管理において非常に重要な役割を果たすため、自社がとるべき戦略や戦術を理解している必要があります。
求められるスキル例
戦略立案能力、ビジネスモデルの理解、プロジェクト管理能力、チームをリードするリーダーシップスキル など
ビジネスデザイナー
ビジネスデザイナーは、ビジネスプロデューサーが立てた戦略に沿って、顧客のニーズや市場動向を分析し、より具体的なビジネスモデルの立案やビジネスプロセスの推進をする役割を担います。プロジェクトを円滑に進めるために、社内外との折衝能力やファシリテーション能力が不可欠です。
求められるスキル例
市場調査やユーザーインタビューなどの調査能力、ファシリテーション能力、サービスデザインの知識、プロトタイピングやワイヤーフレーム作成のスキル など
データサイエンティスト/AIエンジニア
データサイエンティストやAIエンジニアは、ビッグデータを分析し、データから得られる洞察を活用して組織の意思決定をサポートする役割を担います。DX推進においては、データに基づいた戦略の立案やAIテクノロジーの導入による自動化の実現など、重要な役割を果たします。彼らの専門知識によって、組織は効率性を向上させ、競争力を強化することができます。
求められるスキル例
データ分析や統計解析のスキル、プログラミングの知識、機械学習や深層学習の知識、問題解決能力 など
UXデザイナー
UXデザイナーは、ユーザーエクスペリエンスを向上させるためのインターフェースの設計や改善に従事します。DX推進においては、各所のニーズや要求を理解し、それに基づいて使いやすいデジタルプロダクトやサービスを開発します。顧客満足度の向上や顧客ロイヤルティの向上に直結し、利用率や継続率の向上の鍵を握ります。
求められるスキル例
システムデザインに関するスキル、ユーザーエクスペリエンスデザイン(UXデザイン)の知識、プロトタイピングやワイヤーフレーム作成のスキル、デザインツールの知識 など
アーキテクト
アーキテクトは、システムやソリューションの設計と構築に従事します。DX推進においては、効率的なデジタルインフラストラクチャの構築やセキュリティの確保に重要な役割を果たします。ビジネスの拡大に伴い、スケーラビリティや安定性を確保するために、アーキテクトの役割は不可欠です。
求められるスキル例
システム設計やアプリケーション設計のスキル、クラウドサービスやデータベース管理の知識、セキュリティの知識、コミュニケーション能力 など
エンジニア・プログラマ
エンジニアやプログラマは、ソフトウェアやアプリケーションの開発や最適化に携わります。DX推進においては、新しいデジタルソリューションの開発や既存のシステムの改善において、重要な役割を果たします。彼らの技術的なスキルによって、ビジネスプロセスの効率性を向上させることができます。
求められるスキル例
システム設計やアプリケーション設計のスキル、クラウドサービスやデータベース管理の知識、セキュリティの知識、外部との関係構築力 など
先端技術エンジニア
先端技術エンジニアは、最新のテクノロジーを研究し、新しいソリューションやプロダクトの開発に取り組みます。DX推進においては、新たなテクノロジーの導入や革新的なソリューションの提案において重要な役割を果たします。彼らの専門知識によって、組織は競争力を維持し、イノベーションを推進することができます。
求められるスキル例
新しいテクノロジーの研究能力、イノベーションのための発想力、試作品の開発能力、新しいテクノロジーに関する幅広い知識 など
DX人材に必要なスキルや能力とは?
上に挙げたような職種では、技術的なスキルが求められることが分かります。しかし、DX人材に求められるスキルはそれだけではありません。ここでは、DX人材が活躍するために持つべきスキルや知識について6つを取り上げて解説していきます。
IT関連の基礎知識
IT関連の基礎知識とは、コンピューターやネットワークシステム、ソフトウェア、セキュリティなどに関する基本的な理解を指します。DX人材にとって、IT基礎知識はデジタルプロジェクトを理解し、効果的にコミュニケーションを図るために不可欠です。また、新しいデジタルソリューションの導入やデータの管理など、DX推進における基盤となる重要な役割を果たします。
AIなどの最先端技術の知識
AIなどの最先端技術の知識は、機械学習、自然言語処理、ロボティクスなどの最新の技術に関する理解を指します。DX人材にとって、最先端技術の知識はデータの解析や自動化などの業務効率化に貢献し、競争力を強化するために重要です。また、顧客体験の向上や新しいビジネスモデルの開発など、イノベーションを促進するための重要な要素となります。
新しい事業の企画立案力・構成能力
新しい事業の企画立案力・構成能力とは、市場動向の分析やビジネスモデルの構築など、新規事業を計画し実行に移すための能力を指します。DX人材にとって、事業の企画立案力・構成能力は市場のニーズを把握し、DX化における新しいビジネスモデルの創造や展開において重要な役割を果たします。また、競合分析や市場戦略の構築など、組織の成長戦略に貢献するための不可欠なスキルとなります。
データ分析やプログラミングの知識
データ分析スキルとプログラミングの知識はDX推進において欠かせない要素です。データ分析スキルは、ビッグデータから得られる情報を分析し、組織の戦略的な決定に役立てます。一方、プログラミングの知識は、主要言語の知識を活用して新しいデジタルソリューションを開発したり、既存のシステムを改善したりすることで、DXの推進を効果的にサポートします。これにより、組織は効率的な業務プロセスを実現し、競争力を強化することができます。
UX/UIデザインの知識
UX/UIデザインスキルは、DX推進において重要です。ユーザビリティと視覚的魅力を考慮したインターフェースの設計により、顧客の満足度を向上させることができます。これは、顧客体験を向上させることで顧客ロイヤルティの向上や顧客満足度の向上につながります。
プロジェクトマネジメントスキル
プロジェクトマネジメントスキルは、DXの効率的な推進に欠かせません。計画の立案から遂行までを効果的に管理し、チームとの協力を円滑に進めることで、プロジェクトのスムーズな進行と目標の達成を確実にします。その中でコミュニケーションスキルは特に重要です。チームメンバーや関係者との円滑なコミュニケーションを通じて、ビジョンを共有し、問題を迅速に解決することができます。プロジェクトの円滑な進行とチームのモチベーションの向上に貢献します。

DX人材に必要な4つのマインド
DX人材に必要なのは、業務を遂行するためのスキルだけではありません。DX化を成功に導くために超えなくてはならない壁や課題にあたったとき、どのようなマインドセットが必要となるのでしょう。ここでは、例なる4つのマインドを紹介します。
周囲を巻き込む力
DXを成功させるためには、チーム全体の協力はもちろん、全社の協力を得ることが不可欠です。チームメンバーや関係者と協力し、共通の目標に向かって協力を促し、チームのモチベーションを高めながら組織全体の成果を最大化するために重要です。特に、新しい企画を展開する際には、周囲を巻き込む力が新しいアイデアや戦略の実現において重要な役割を果たします。
臨機応変で柔軟な対応力
必ずしもすべて計画通りに進むとは限らないため、市場の変化や外部状況の変化にも柔軟に対応しなくてはなりません。臨機応変で柔軟な対応力は、DX化を成功させるために不可欠なマインドのひとつと言えるでしょう。
未来を予測する想像力
未来を予測する想像力とは、将来のトレンドやニーズを予測し、それに基づいて戦略を立案する能力を指します。DX化の成功には、将来の技術の進化や市場の動向を予測し、それに応じたビジネス戦略を展開することが必要です。
主体性や好奇心
デジタル技術の進歩は目覚ましく、変化の速度も速いです。そのため、DXの推進には、積極的な学習意欲や自己主導性が不可欠です。事業を成功させたい、現状の課題を解決したいと思える主体性や「やってみたい」と思う好奇心が大切です。
DX人材を確保する方法
DX人材を確保する方法を検討する前に、まずは企業として求めるDX推進を担う人材像について考えていきましょう。
求めるDX人材像の設定
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表した「DX白書2023」では、DXを推進する人材について「人材像を設定しているか」の調査を行いました。その結果、「人材像を設定し、社内に周知している」と回答した割合は18.4%と全体の2割に満たない結果となりました。一方の米国では、同じ質問に対して48.2%が「人物像の設定と社内周知」を行っており、この点で日本企業はDX人材に求めるスペックについて未だ不明確なことが浮き彫りとなりました。DX人材を確保するためには、まずは企業が求めるDX人材の人材像を明確にする必要があります。
DX人材を確保する方法
DX人材像の設定が完了したら、実際にDX人材を確保する方法について検討していきましょう。具体的な方法としては、「外部から採用する」、「社内で人材を育成する」、「外部リソースを活用する」の3つが挙げられます。それぞれ抑えるべきポイントについて紹介します。
・DX人材を採用する
DX人材を採用することは、即戦力を得ると同時に組織に新しい視点や専門知識をもたらすことにつながります。しかし、現在はDX人材の需要が高まり、獲得競争も激化しています。そのため、自社が求めるDX人材において求めるスキルや役割を明確にし、先述した職種例のうり自社で不足している職種やマインドセットについて入念に洗い出す必要があります。さらに、入社してほしいと思ってもらうためには、企業としての魅力づけを行うことも大切です。
・社内でDX人材を育成する
DX人材を外部からの採用することに苦戦する場合は、社内でDX人材を育成する方法を検討しましょう。社内でのDX人材育成には、外部からの新規採用にはないメリットもあります。それは、すでに自社の取り組みを理解している従業員を育てることで、自社の理念に沿った強力なDX人材になりうる可能性を持つという点です。しかし、既存の従業員に対してトレーニングや研修プログラムを提供し、必要なスキルや知識を身につけさせるには、ある程度時間とリソースが必要です。DX人材に求めるスキルと役割をしっかり整理し、中長期的に育成を進めていきましょう。
・外部リソースを活用する
社外からの採用、社内育成以外にもDX人材を確保する方法があります。それは、外部リソースを活用することです。コストはかかりますが、コンサルティングファームや専門教育機関などの外部機関から支援を受けることで、専門知識やノウハウを素早く取り入れ、自社が抱える課題や不足している部分に対して必要な人材を効率よく補うことができます。また、DX推進における環境や求められるスキルは短期間で変化する可能性もあるため、その意味でも外部リソースを活用することは有効な手段といえます。外部リソースを活用する際は、組織内外のコミュニケーションや調整が大切です。外部のエキスパートが組織から抜けたあとに、自社内で事業を自走化させるためにも自社の従業員も一緒にDX推進に関わっていくことが重要です。


まとめ
DX人材に求められるスキルはデジタル技術に関する知識だけではなく、周囲を巻き込む力や臨機応変な対応力、未来を予測する想像力、そして主体性や好奇心などのマインドも重要です。これらのマインドを持つことで、チームや組織全体の成果を最大化し、DXの推進に貢献することにつながります。
DX人材の獲得と育成は組織にとって重要な戦略的課題であり、組織の成長と競争力の強化に結びつきます。DX推進において、自社がどの役割とスキルが不足しているのか、そして、どのようなDX人材を求めるのかについて、今回の記事で紹介した職種例やスキル、マインドを参考に、人材の確保に取り組んでみてはいかがでしょう。