経済産業省の視点から見たデジタルトランスフォーメーション(DX)
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、企業や組織がデジタル技術を活用し、事業や運営の改革を行うプロセスを指します。このDXは従来のIT化に類似した取り組みなので混合されることもありますが、IT化が「デジタル技術を用いた業務改善」であるのに対して、DXはそれらを踏まえて行う「抜本的な組織改革や新たな価値の創造」を意味します。DXが戦略として注目されるようになったのは、経済産業省の『DXレポート:ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開』(通称:DXレポート)がきっかけだといわれており、同省はこのDXを推進する重要な役割を担っています。
経済産業省はDXを次のように定義しています。「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」。つまり、単なる技術導入に留まらず、企業文化やビジネスモデルの革新をも含むものとされているのです。これにより、迅速な意思決定や業務効率の向上が期待できるとされています。※
※ DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~(METI/経済産業省)
DXとは経済産業省が定義する概要
経済産業省が定義するDXは、企業がデジタル技術を用いて業務プロセスの革新を図るだけでなく、顧客価値の向上や新しいビジネスモデルの創出を含む広範な概念です。先述の「DXレポート」には、「2025年の崖」という表現で、日本がDX戦略を推進しなかった場合の損失を解説しています。それによると、DX戦略が推進されなければ、日本は市場の変化に対応できなくなり、デジタル競争の敗者になってしまうこと、システム維持管理費がIT予算の9割以上を占めてしまうこと、システムトラブルやデータ滅失リスクが高まること、などのデメリットが記されています。この結果、最大で2025年以降において年間12兆円の経済損失が生じる可能性があるとされ、経済産業省は危機感の提示とDX推進の重要性を説いています。
DXを推進するという取り組みについては、デジタル技術を活用することで、企業の競争力を高め、業務の効率化を促進し、さらには市場の変化に柔軟に対応できる体制を整えることが求められます。そうしてリスク対応の最適化を行うとともに、新たなサービスや商品の価値を創出するという効果を図るのです。DXは、単なるIT投資ではなく、企業全体の戦略的取り組みであることを理解することが重要です。
DXの定義
DXの定義は、先述の経済産業省の表現の通り、企業や組織がデジタル技術を用いて業務プロセスやビジネスモデルを革新することです。デジタル技術の導入により、効率化や迅速な意思決定を可能にすることがその目的となります。
また、DXは顧客ニーズの変化に対応するための手段でもあります。これにより、企業は新たな価値を創造し、競争力を高めることが求められます。経済産業省の視点では、DXは単なる技術導入を超え、企業文化の変革にも寄与する重要な戦略といえるでしょう。
DXの目的と背景
DXの目的は、究極的には企業の競争力を向上させ、安定的かつ発展的な事業の循環性をもたらすことです。デジタル技術を活用し、顧客体験の改善や業務プロセスの効率化を実現します。
この目的の背景には、急速な技術進展や顧客ニーズの多様化があります。グローバリズムを基盤とする市場経済は不確実性が極めて高いため、現代社会における企業は激しい変化の荒波を乗りこなす武器を持たなければなりません。企業はこの流動的な現代社会に適応するために、その武器としての高度なデジタル化を進める必要があるのです。また、COVID-19の影響でリモートワークが普及したことも、DX推進の大きな土壌となっています。自然災害や紛争、そうしたさまざまな有事にも対応できるデジタル体制を整えておくことには重要な意味があります。このように企業競争力を維持するためには、DXが不可欠な時代となっているのです。

DX推進の重要性とその理由
DX推進の重要性は、企業が競争力を維持するためには欠かせない要素となっています。急速な技術進化や消費者ニーズの変化に対応するためには、デジタル技術の導入が必須であるといえます。
また、DXは業務効率を向上させるだけでなく、新たなビジネスモデルの創出をも可能にします。これにより、従業員の働き方改革や顧客サービスの向上も図ることができ、持続可能な成長へとつながるのです。
日本の現状と課題
日本におけるDXの現状は、企業や政府の取り組みが進んでいるものの、さまざまな課題も存在しています。特に、大企業と中小企業の間でのDX推進の進捗には大きな差が見られます。このようなDXの格差が生まれる要因は、単純に資金力の違いから生じるものもあれば、専門的な知見や人材が欠けているというもの、企業の経営層が必要性を理解・共感していないというものなど、さまざまな背景があります。
さらに、仮に経営層がこの効果に理解を示し、一定の資金力と専門的な人材を有していながらも、現場のデジタル技術の効果に対する理解が得られずに導入が進まないケースも多々あります。このような状況を打破するためには、教育や研修を通じて社員のスキル向上を図る必要があるといえます。
企業文化の変革も重要な課題です。DXは極めて大規模な取り組みであり、それは「企業の包装紙を変える」のみならず、「企業のエンジンを変える」という、企業の中核部分に変革をもたらすものです。よって、これは各部署が独自に行えるような単発の取り組みでは成功することができず、強い指導力と確かな展望に基づくトップダウンでのDX推進が求められます。

グローバルな視点から見たDX
グローバルな視点から見ても、DXは世界中の企業が取り組む重要なテーマとなっています。特に、先進国においては、デジタル技術を活用したイノベーションが競争力の源泉とされています。たとえば、GAFAと呼ばれるGoogle、Amazon、Facebook、Appleなど「デジタルの巨人」がDXを活用したビジネスで成功を収めている事例が、その効果をわかりやすく説明する材料となっています。これらのDXを介したビジネスは日常生活に浸透しており、個人の行動選択にも影響を与えるほどの存在となっています。
日本企業もこのような世界的な流れに乗り遅れないために、より効果的なDX戦略を模索することが求められているといえます。海外の成功事例を活用し、柔軟な戦略を取り入れることで、急速に変化する市場環境に適応することを目指さなければなりません。これにより、グローバル市場での競争力を高めることが期待できるようになるのです。

経済産業省のDX推進施策
経済産業省は企業の競争力を高めるためにさまざまなDX推進施策を展開し、デジタル技術を用いた業務改善や新たなビジネスモデルの構築を支援しています。たとえば、日本のITシステムにおける課題のひとつがレガシーシステムです。IT化を行ったのは良いものの、企業のIT分野が複雑化、老朽化、ブラックボックス化(特定かつ少数の専門者しかシステムを理解していないような状況)した場合、これがレガシーシステムとなって技術的負債となり、保守・運用コストが高騰し、また多面的な経営リスクを抱えることにも繋がってしまいます。このレガシーシステムの課題に対してDX戦略を推進し、クラウド、モバイル、ソーシャル、ビッグデータアナリティクスなどのデジタルトレンドを通じて変革をもたらすことができれば、使いやすくコスト節減を図ることのできるシステムを再構築することができます。
政府はDXに関するガイドラインを提供し、企業がよりスムーズにデジタル化を進められるようサポートを行っています。さらに、企業間の連携を促進するための施策も推進しており、産学官の協力によって効果的なDXの実現を目指しています。※
※ DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~(METI/経済産業省)
政策とガイドライン
経済産業省は、DX推進に向けた具体的な政策とガイドラインを策定しています。これにより企業は、どのようにデジタル化を進めるべきかを明確に理解することができます。
特に、業種ごとの特性に応じた実践的な手引きが提供されているため、企業は自社の状況に合わせた取り組みを行いやすくなっています。これらの政策を活用することで、企業は変化に迅速に対応し、競争力を強化できるでしょう。
具体的なDX推進施策
経済産業省が推進する具体的なDX施策には、まず「DX推進ガイドライン」の作成があります。これは企業がデジタル技術を導入する際の指針となり、適切な実施方法を示します。
次に、企業間のデータ共有を促進するための「データ流通促進政策」があります。これにより、企業が持つ情報を活用して、新たな価値を創出することが可能になります。
さらに、「IT人材の育成プログラム」も重要なポイントです。デジタル技術を扱える人材を育成することで、企業のDX推進を後押しします。これら施策は全体として、持続可能な経済成長の実現を目指しています。※
※ DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~(METI/経済産業省)
DX導入の成功事例と失敗事例
DX導入の事例として、たとえば製造業の取り組みが挙げられます。ある企業はIoT技術を活用し、製造ラインのリアルタイム監視を実現しました。これにより、生産効率が劇的に向上し、不良品の発生を抑えることができました。
一方で、ある企業はこれに失敗しました。彼らは最新のITツールを導入しましたが、従業員の教育が不十分で、活用が進まない結果になってしまったのです。これらのケースから、技術の導入だけでなく、現状の分析と展望の策定、教育や文化の醸成といった戦略的な要素が成功に不可欠であることが分かります。
成功事例
DXの成功事例として、ここにひとつの具体的な事例を挙げてみましょう。昨今ではSNSを介した就職活動もありますが、自分の知り合いの域を超えたつながりをつくるのは難しい状況です。この状況を踏まえて、DX戦略を策定した企業がウォンテッドリー株式会社です。インプレス社の『いちばんやさしいDX(デジタルトランスフォーメーション)の教本: 人気講師が教えるビジネスを変革する攻めのIT戦略』の記述に基づきますと、同社は「Wantedly」というビジネスSNSを創出し、「つながりを深める」ということを焦点化した情報の交差を劇的に変えましたといいます。これまで気軽に会社訪問ができず、求職者にとっては給料や福利厚生、風土や仕事内容について不鮮明な部分が残っていましたが、同社のSNSはその「企業に会う」「企業を知る」という行為のハードルを下げ、リクルーティングの変革をもたらす試みを実践しました。そして、同社はビジネスSNS「Wantedly」で得られたユーザーと企業データを用いて、「採用後の定着率改善」という多くの企業が抱える課題を新たなビジネスとして創出する展開にも及んでいます。※
これらの取り組みにより、企業の競争力が大幅に向上したことはいうまでもありません。
※ 『いちばんやさしいDX(デジタルトランスフォーメーション)の教本 : 人気講師が教えるビジネスを変革する攻めのIT戦略』/ 株式会社インプレス より

失敗事例
もちろん、 DXには失敗事例も存在しています。たとえば、多くの企業が直面するのは、導入したDXツールの活用が進まないという問題です。ある企業では、新しい業務システムを導入しましたが、従業員に対する教育やトレーニングが不十分でした。その結果、現場では従来の業務手法が維持され、新しいシステムが十分に活用されることはありませんでした。
また、経営層のサポートが欠如しているケースもあります。トップダウンのリーダーシップが不足することで、DX推進の意義や目的が従業員に伝わりにくくなり、社内のエンゲージメントも低下します。このような失敗事例から学ぶことは、計画的な教育や経営陣の関与が反映される施策が必要であるということです。
DX推進における課題と対策
DX推進においては、さまざまな課題が存在します。例えば、技術の導入に対する社内の理解不足や、変革に対する抵抗感が挙げられます。また、デジタルスキルを持つ人材の不足も大きな問題です。
これらの課題を克服するためには、リーダーシップの強化と社内教育の充実が不可欠です。具体的には、DXの重要性を全社員に周知し、スキルアップのための研修を実施することが効果的です。こうした取り組みにより、企業は持続的な成長を実現することができるでしょう。重要なことは、企業内におけるデジタイゼーション、デジタライゼーション(いわゆるIT化)がどのような現状であるか、その中にどのような課題があり、それをどのような方法で解決したいか、また自社の強み・弱みがどのような部分にあるかといった、「自分自身(企業自身)を知る」ということなのです。
技術的課題
DX推進において考慮すべき重要な要素の一つが、技術的課題です。デジタル化を進める中で、システムの統合やデータの整備が求められます。
特に、既存のレガシーシステムとの連携やデータの一元化は、企業にとって大きなハードルとなります。これに対処するためには、新たな技術の導入を計画的に行い、段階的にシステムを更新することが重要です。
さらに、セキュリティ対策も忘れてはなりません。デジタル化が進むことで、情報漏洩やサイバー攻撃のリスクが高まりますので、しっかりとしたセキュリティポリシーを策定し、定期的な見直しを行うことが不可欠であるといえます。
組織的課題
DX推進における組織的課題は、企業の文化や構造に深く根付いているため、簡単には解決できません。つまり、変革に対する抵抗感や、既存業務に対する執着が障害となることが多くあります。
さらに、部門間の連携不足も大きな課題です。異なる部署が縦割りで運営されていると、DX推進に向けた共同作業が妨げられます。せっかく統合的なシステムが完成しても、それを管理する組織が衝突・分裂・干渉を繰り返している状態では意味がありません。
このような組織的課題を克服するためには、オープンなコミュニケーションを促進し、各部門が持つ知識やスキルを共有する体制を整えることが重要なのです。
対策と提言
DX推進のための対策として、先ほどの文章でも触れた「経営層からの強力なリーダーシップ」が不可欠です。DXは「企業のエンジンを変える」ような極めて大規模かつ深淵な取り組みとなりますので、展望と指導力を有したトップがDXの重要性を掲げる必要があります。それによって、全社的な理解が得られるよう図ることが重要となります。
次に、社内の教育プログラムを強化することが重要です。デジタルスキルを身につけるための研修やセミナーを定期的に実施し、従業員の知識と技術を向上させましょう。
最後に、外部の専門家と連携し、最新の技術動向を取り入れることも非常に効果的です。新たな視点を得ることで、企業の成長を加速させることが期待できます。これらの提言を実行し、持続可能なDX推進を図っていくと効果的です。

大手企業におけるDX推進の戦略
大量の人的・技術的・資金的なリソースを有する「大手企業」においては、特にレガシーシステムや業務の非効率性、既存事業の苦戦などの課題を抱えていますので、そうした不確実性に呼応できるDX推進の戦略は非常に重要な要素となります。そこでは、やはり経営層が自らデジタル化の必要性を理解し、全社的なビジョンを掲げることが求められます。このビジョンに基づき、各部門が連携して具体的なアクションプランを策定することが成功の鍵です。
さらに、データ活用の仕組みを整えることも大切です。現代社会のビジネスにおけるデータは宝の山であり、これをどのように活用するか、あるいはまったく活用しないかでビジネスの精度が大きく変化します。データ分析によって顧客ニーズを把握し、新たなサービスや製品の開発につなげることで、競争力を高めることができます。これらの戦略を着実に実行することで、大手企業は持続的な成長を実現できます。
戦略策定のポイント
戦略策定においては、まず企業の現状分析が不可欠です。自社の強みや弱み、さらには市場の動向を把握することで、DXの目的を明確に定義することができます。
次に、ステークホルダーの関与が重要です。経営層や各部門の意見を反映させることで、全社的な理解と協力を得ることができます。
最後に、実行可能なロードマップを描くことが求められます。短期、中期、長期の目標を設定し、進捗を定期的に確認することで、柔軟に戦略を見直す体制を構築することがDX成功のカギとなります。DX戦略を構築する際に多くの人が陥りやすいのが「壮大すぎる」という罠です。インプレス社の『いちばんやさしいDX(デジタルトランスフォーメーション)の教本: 人気講師が教えるビジネスを変革する攻めのIT戦略』では、プロジェクト準備中に「スローガン」「DX専任組織」「分厚い計画書」などを見かけたら注意が必要であると指摘されています。※
とにかく、まずは「現実的にできるもの」から「小さい試行」を重ねていくことが重要であり、「効果出ているね」「このへんもDXの効果がありそうだ」という評価と理解を得ながらプロジェクトを推進することが求められます。
※引用:『いちばんやさしいDX(デジタルトランスフォーメーション)の教本 : 人気講師が教えるビジネスを変革する攻めのIT戦略』/株式会社インプレス
成功に向けたステップ
DXを成功に導くためには、基本的なステップがあります。
まず、企業全体でのデジタルトランスフォーメーションに対する理解を深めることが必要です。経営層が率先してDXの意義や目的を周知し、従業員全員がその取り組みに関与できる環境を整えることが第一歩となります。
次に、具体的な目標設定を行い、それに基づいたアクションプランを作成します。短期的な成果はもちろんですが、中長期的なビジョンも考慮することで、持続的な進化が可能となります。
最後に、定期的に進捗状況を確認し、必要に応じて戦略を見直すことで、DX推進の成功を確実にする、という流れに至ります。

まとめ
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、企業がデジタル技術を活用して事業や組織を根本的に変革するプロセスです。従来のIT化が業務改善という性質を帯びる取り組みであるのに対して、DXは企業文化の変革や新たな価値の創造の性質を帯びています。経済産業省はこのDXを進めるための指針や支援を行っており、この取り組みが進まなければ日本がデジタルビジネスの世界で大きく遅れを取ると警鐘を鳴らしています。こうしたDXの取り組みにより、企業は競争力を強化し、持続可能な成長を実現することが可能となるのです。極めて流動的で不確実性が高い現代社会。経済産業省の視点から、社会変化の荒波に適応できるDXを理解し、これを現実的に可能な側面から実践を繰り返していくことが求められています。